ホームエレベーターのある暮らし
高齢化で変わる、
住まいとの関係
かつて住まいは一生かけて手に入れる大切な「財産」でした。いったん入手してからは手を加えることなく大切に使い続け、やがて子どもに引き継いでいく。そんな住まいとの関係がいま大きく変わってきています。その背景には日本人の平均寿命が長くのび、「人生100年社会」の到来を迎えようとしている現実があります。
人々は長い老後をどう快適に過ごすかを真剣に考えるようになり、それを支える重要な要素の一つとして住まいを見つめ直しはじめました。今、住まいには財産としての価値だけでなく、暮らしの豊かさを支える生活空間としての価値が求められています。
住まいの形に合わせて暮らすのではなく、ライフスタイルに合わせて住まいの形を変えていく。誰もが当たり前のようにリフォームを検討する時代が始まっています。
縦のバリアフリーを考える
建物の老朽化対策をしたり、省エネ化や耐震対策を施したり、使い勝手を改善したりとリフォームの目的は様々です。でも、意外と見過ごされているのが、将来に向けたバリアフリー対策です。
中でも重要なのが「縦のバリアフリー」です。年をとって上下階の移動が困難になると生活機能が1階に集中し、ものが溢れ結果的に生活の質が低下してしまいます。また1階は日当たりや風通しが悪いことが多く、健康上の問題も懸念されます。
「縦のバリアフリー対策」の決め手は上下階をスムーズに移動できるホームエレベーターです。リフォームをされる方はまだ健康な50~60代の方が多く、実感が湧かないかもしれませんが、快適なセカンドライフのためにぜひ検討をおすすめします。
Data「老後」と「現在の住居」について
シニアにおける、
老後と住まいに関する意識調査
- Q: 現在の住まいに、できるだけ長く住みたいですか。(回答は1つだけ)
- Q: 今後、足腰が弱くなり、歩行器や車椅子が必要になった場合、現在の住まいでストレス(不自由)なく住み続けられますか。(回答は1つだけ)
- Q:具体的にどのようなストレス(不自由)を感じると考えますか。(回答はいくつでも)
シニア層における「住まい」と「老後」に関する調査データ<2015年8月>より抜粋。
- 【調査対象と規模】「持ち家戸建て居住」「既婚」「子ども有」「自宅に同居世帯なし」の全ての条件を満たしている、60歳から75歳までの男女600名を対象に三菱日立ホームエレベーター株式会社が実施。
- 【調査期間】 2015年8月10日~8月15日
- 【調査方法】インターネット調査
- 【回答者数】600名
狭い住宅は改築で
住宅開発ブームの80年代以降、間口数メートルのいわゆる狭小住宅が都市部を中心にたくさん建てられました。これらの住宅が築30年、築40年を迎え、リフォームの対象となっています。
狭小住宅の場合、主に改築となります。ホームエレベーターは約1坪の空間を確保すれば設置できますからスペース的には問題ありません。ただ、屋内にホームエレベーターを設置する場合は、建物の構造強度がそれに対応していることを証明した上で、所轄の行政庁に確認申請を行う必要があります。
具体的な手続きなどは、建築士や施工会社と相談しながら、進めていくことになります。
敷地に余裕があれば増築も
ある程度広い敷地がある場合は、親や子供世代と同居したり、店舗やアパートを併設したりと様々なリフォームプランが可能になります。建ぺい率、容積率などの建築基準法の規程内であれば、新しい建物の増築もできます。
増築の場合は、新旧の建物の関係に気をつけましょう。建築基準法では「一敷地一建物」という原則があるので、それぞれの建物が独立していると敷地も分割しなければならなくなります。
ホームエレベーターはエレベーター棟という形で既存住宅と不可分な関係として増築することができます。その際、構造上の判断は個別の検討が必要になります。既存住宅部分の構造根拠が検査済証等で証明出来ない場合には増築部分の接合をエキスパンションジョイントとすることにより既存住宅の構造性能を法律上問われず増築を行うことが出来ます。構造根拠が明確な分、屋内にホームエレベーターを設置するよりも簡単と言えます。
ホームエレベーターの
ある暮らし、
ふたつのリフォーム事例
セカンドライフをより快適により安全に暮らせる住まいのあり方を考えるとき、縦のバリアフリーを実現するホームエレベーターは欠かせない設備です。
今回は、既存住宅にホームエレベーターを設置するにあたり、改築プランと増築プランの2つの事例をご紹介します。
- 設計アドバイザー
- 佐々木善樹建築研究室
一級建築士 - 佐々木 善樹Yoshiki Sasaki
改築プラン
既存の住宅の中に
ホームエレベーターを設置するプラン
都市部に多い狭小地3階建て住宅に、ホームエレベーターを設置するビフォー・アフターを想定してみました。※今回ご紹介するプランは、約11坪(間口3,640mm、奥行10,010mm)。
増築プラン
既存の住宅と切り離して外に独立した
ホームエレベーターを設置するプラン
敷地にある程度余裕がある場合を想定して、ホームエレベーターのある独立したもう一つの建物を既存の住宅に付けて建てるリフォームプランを考えてみました。
- ユーザープロフィール
家族構成:夫60歳・妻55歳・娘22歳
定年を期に今後、体力が衰えてゆく中で夫婦二人が安心して暮らせるようにホームエレベーターを設置。
物件概要(Before)
- 敷地面積:61.50m²
- 建築面積:36.43m²(約59%)
- 延床面積:86.11m²
- 1階床面積:16.56m²
- 2階床面積:33.12m²
- 3階床面積:36.43m²
- 建物構造:木造
物件概要(After)
- 敷地面積:61.50m²
- 建築面積:36.43m²(約59%)
- 延床面積:86.38m²
- 1階床面積:19.76m²
- 2階床面積:31.90m²
- 3階床面積:34.72m²
- 建物構造:木造
狭小地に建つ3階建て住宅。現在、生活の中心となっている2階のスペースを、将来、夫婦が老齢期を迎えてもそのまま使い続けれられるよう、ホームエレベーターを屋内に設置しました。ビフォー・アフターで生活機能が変わらない典型的なリフォーム事例です。
約1坪のスペースを確保してホームエレベーターを設置しました。今回、ホームエレベーターの設置以外は、ほとんど工事をしていません。
工事までのプロセス
- 1新築時の検査済証
(完成検査合格証)確認 - 2リフォームプラン作成
- 3行政庁への事前協議
- 4ホームエレベーター設置に必要な構造補強計画作成
- 5確認申請提出
- 6ホームエレベーター確認申請提出
- 7リフォーム・ホームエレベーター設置工事
- 8完了検査(行政庁検査)
※建築後に増築工事などのリフォームを実施している場合は、リフォーム実施時のもの
※詳しくは、建築士にご相談ください。
※フローは一例ですので、行政庁の指示に基づき運用ください。また、行政庁への事前協議で必要とされた図面、書類などは適宜ご用意ください。
既存住宅にホームエレベーターを設置する場合は、建物の検査済証が必要です。
検査済証(完成検査合格証)は建物の品質(強度)を証明する資料です。これがあればホームエレベーターを後から設置する場合でも定められた構造補強を計画すれば確認申請がスムーズにおります。既存住宅にホームエレベーターを設置する場合は、まずこの検査済証の有無を確認してください。
検査済証がない場合は、建物全体の構造計算をやり直さなければなりません。それを元にホームエレベーターの設置に必要な構造補強の計画を立てた上で確認申請を提出します。
- ユーザープロフィール
家族構成:夫58歳・妻58歳・娘25歳
定年を間近に迎え念願だったカフェの経営のための増築を行い、合わせて将来の夫婦二人暮らしも想定してホームエレベーターを設置。
物件概要(Before)
- 敷地面積:135.33m²
- 建築面積:60.03m²(約44%)
- 延床面積:110.96m²
- 1階床面積:60.03m²
- 2階床面積:50.93m²
- 建物構造:木造
物件概要(After)
- 敷地面積:135.33m²
- 建築面積:72.05m²(約53%)
- 増築面積:13.88m²
- 延床面積:124.84m²
- 1階床面積:72.05m²
- 2階床面積:52.79m²
- 建物構造:木造
敷地(建ぺい率・容積率)にある程度余裕のあるケースです。敷地に余裕があるのでさまざまなリフォームプランを考えることができますが、今回はセカンドライフの楽しみとして、1階にカフェを開いて既存住宅の生活空間も有効に使えるプランにしてみました。
既存住宅にカフェを併設したホームエレベーター棟を増築しています。既存住宅部分の構造根拠が明確か否かにより方法は異なりますが容易に増築が可能となります。屋内設置以上に多様な可能性が考えられると言えます。
工事までのプロセス
- 1新築時の検査済証
(完成検査合格証)確認 - 2エレベーター棟・リフォームプラン作成
- 3行政庁への事前協議
- 4増築申請提出
- 5ホームエレベーター確認申請提出
- 6ホームエレベーター棟工事・それに伴う建物の増改築工事
- 7完了検査(行政庁検査)
※建築後に増築工事などのリフォームを実施している場合は、リフォーム実施時のもの
※詳しくは、建築士にご相談ください。
※フローは一例ですので、行政庁の指示に基づき運用ください。また、行政庁への事前協議で必要とされた図面、書類などは適宜ご用意ください。
既存住宅の外にホームエレベーターを設置する場合、ホームエレベーター棟を建物から独立した構造物とみなす方法と一体の構造物とみなす方法があります。前者の場合、単独の構造計算が可能となりますから、家の中にホームエレベーターを設置する場合よりもかえって申請は容易になります。*
敷地にある程度余裕があり、ホームエレベーター棟を建てても建ぺい率・容積率などの建築基準法の規程内であれば建築が可能です。
*建築基準法では、生活機能をもたないホームエレベーター棟は独立した建物ではなく既存住宅と不可分なものとしてみなされますので、「一敷地一建物」の原則に触れることなく、増築申請することができます。
※詳しくは建築士に相談されることをおすすめいたします。
リフォームをする際に確認しておきたいこと
改築工事や増築工事など、いわゆる大規模なリフォームをする際には、もともとの設計図面があるとスムーズにリフォームプランを作成することができます。とくに木造住宅の場合などは、壁で家を支えていますからどれが動かせる壁で、どれが動かせない壁かを判断する必要があります。設計図面があればそうした確認も簡単におこなえます。またホームエレベーターを設置する場合、建築基礎部の地中梁、水道管やガス管が埋設されている場所が判れば、プランニング段階で検討することも可能になります。設計図面等は、リフォームをする際にも必ず必要になってきますから、大切に保管されることをお勧めします。